クルマ 1euで2.5km走行
「クルマの燃費なら知ってるよ。」このコラムの読者ならそう思うことでしょう。いま販売されているクルマ(ガソリンエンジン、乗用車)の燃費は1リッター当たり平均12.3km(93年度、10・15モード方式)、1euで2.9km。実測では2割くらい下回るのが一般的ですから、リッター10km、1eu当たり2.5kmくらいでしょうか。
1970年代後半、米国のマスキー法という大変厳しい排ガス規制を克服するため、日本の自動車会社は低公害車の開発に取り組み、その副産物として低燃費化と品質向上を実現、日本車は世界を席巻するまでになった。−−環境対策が決して経済成長と対立するものではないことを示す実例として、この話は今も語られます。
それでは日本のクルマはそんなに効率がいいかといえば、実際にクルマが旅客1人を1km運ぶのに消費するエネルギーは572kcal/人・km(ガソリン換算でリッター当たり15kmくらい)、これはバスの4倍、鉄道の12倍に当たります。どうして燃費が改善されないのか、その対策はないかを考えてみましょう。
- 道が混んでいる。
日本政府の地球温暖化対策費を見てみたら大半が渋滞解消を図る道路建設費だった、などということが起きる理由です。渋滞解消には確かに道路整備が必要ですが、交通量増大との“いたちごっこ”になってしまい、いっこうに解消されません。
多くの国ではクルマを減らす手法が試みられています。大気汚染世界一といわれるメキシコシティなどでは、ナンバー末尾番号の偶数奇数での市街地乗り入れ制限を試みています。ドイツでは市街電車を再評価し、格安の定期券を発行してクルマから鉄道に乗り換えてもらう政策を進めています。また郊外から市街中心部に行きたい人に、周辺の駐車場で電車やバスに乗り換えてもらう「パーク・アンド・ライド」は、日本でも鎌倉市で実験されています。このほか、カーナビに渋滞情報を流すシステムはもう稼働間近です。自動車メーカー各社は市街地で自動運転になる未来交通システムを構想しているようです。
- ほとんど1人乗りだ。
4人乗れるものに1人か2人しか乗っていない。体重70kgばかりの人ひとりのために1トン半の鉄の固まりを動かすのですから、燃費がよくなるはずがありません。シンガポールでは1人乗りでの市街中心部への乗り入れを制限していますし、ロサンゼルスにも複数乗車専用車線があります。でも、思いついたときに1人で乗れるのがクルマの魅力の一つですから、悩ましい問題です。
- 実は燃費性能も落ちてきた。
日本車の燃費性能は、大型化や高級化、安全装備の義務づけによる重量増などで82年をピークに下がり続け、また苦労して開発した低燃費車よりも大排気量で燃料喰いのRV車のほうがよく売れるという皮肉な状況が続いています。ユーザーの意識にかかっているともいえますが、炭素税などを導入して、低燃費を選んだ人がトクをする社会にすることも必要でしょう。
低燃費自動車 1euで6.7km走行
販売するクルマの一定割合を、排ガスを出さない(ゼロエミッション)あるいは排ガスの有害成分が少ない(ローエミッション)クルマにすることを義務づけた米国カリフォルニア州法への対応をにらみ、さらには今後の排ガス対策と温暖化対策を見据えて、世界の自動車メーカー各社は低公害・低燃費自動車の開発を進めています。
すでに市販されているゼロエミッション・カーは「電気自動車」だけです。どこかの発電所では排ガスを出しているにしても、クルマ自体は排ガス・ゼロ。ただ充電時間や航続距離、価格にまだ難点があります。
各社開発中の「燃料電池自動車」は、水素やエタノールを化学反応させて電気を取り出し(電気分解の逆)、そのあとは電気自動車と同じです。充電しなくていいのでクルマの手軽さがそのまま活かされ、しかも排ガスは水蒸気だけ。未来車の本命視されています。
昨年末に発売された「ハイブリッド車」、トヨタ・プリウスはガソリン自動車と電気自動車の“いいとこ取り”を狙ったものです。ガソリンエンジンを回すのでゼロエミッションではありませんが、エンジンは燃焼効率のいいところだけ回し、走りながら充電、効率の悪い速度帯は電気モーターでカバーすることによって、外部からの充電なしに省エネ・低公害走行を実現できます。プリウスは28km/L(10・15モード)と、同ランク車に比べ2倍の燃費性能を誇ります。1euで6.7kmまで延びました。ヨーロッパの自動車各社が目標とする「3リッターで100km」まであと一歩というところです。
クルマは石油文明20世紀の人間の夢そのものでした。国民車。3C。いつかはクラウン。洗車さえもが楽しい。月賦と維持費に給料の大半をはたいても、駐車場代だけで月数万円取られても持っていたい。日本だけで年に1万4千人が交通事故で死んでも、大気汚染が改善されなくても手放せないクルマ。
しかし計算上、来世紀中には石油資源が底をつきます。100km/Lくらいまでいくとか、安価なゼロエミッション自動車が完成するというとんでもないブレークスルー(技術開発による問題突破)がない限り、21世紀、クルマに明るい未来はありません。夢を捨てることは、本当に難しい。
屋木伸司/文
(注と出典)
- 各種エネルギー統計数値:
- 省エネルギーセンター『省エネルギー便覧』等。ガソリン1l=8400kcal=4.2euで計算。なお、車種別の燃費・CO2排出量一覧を環境パートナーシッププラザで公開している。(http://www.geoc.jp/)
- 渋滞対策:
- 世界資源研究所他編『世界の資源と環境1996-97』(中央法規)など。
- 電気自動車:
- トヨタのRAV4が495万円。飛躍的に高性能なバッテリーさえ開発されればゼロエミッションカーの本命になる可能性も残っているが、本格的に普及させるには充電ステーションを全国に配置しなければならない。発電所の様々な問題も考慮する必要がある。
- プリウス:
- トヨタ資料。赤字覚悟といわれる定価215万円、セールスも順調とのこと。各誌の実測では15〜20km/Lくらいで、燃費向上は使い方次第。ハイブリッド車は(1)低速では電気だけで走るので夜の住宅街でも静か(2)回生ブレーキでエネルギー回収するので市街走行で威力(3)原理的にはどんなエンジンにも対応可−−ということで、タクシーにしたら世界に自慢できそうな気がする。
- その他のハイブリッド車:
- 日産、ホンダも発売を予定している。ホンダはバッテリーでなくコンデンサを使う30km/Lの軽量スポーツカー。GM、クライスラーもモーターショーに出展した。ガソリンが安い米国ではモトは取れないのではと思っていたら、トヨタも北米向けにプリウスの大きいのを開発中とか。なお日野のパラレル式ハイブリッド・バスなどが以前から開発されていたが、成功したとはいえない。
- その他の低燃費自動車:
- 直噴ガソリンエンジン(三菱のGDI、トヨタのD4など)が燃費3割向上を謳っている。また直噴ディーゼル(いすずのDD)は燃費6割向上というので驚いたら、同クラスの「ガソリンエンジン車と比べて」だそうだ。
- 低公害:
- 日本車は厳しい排ガス規制をクリアしたと事ある毎にいわれるが、台数が増えたことなどから、窒素酸化物の環境基準はずっと守られていない。しかし今年秋から数年かけて、排出規制が大幅に厳しくなる。温暖化防止の観点から燃費3割向上という業界目標も定められた。生き残りを賭けた各社の環境技術競争はこれから。
- 燃費向上:
- 齋藤武雄氏(東北大教授)は『ヒートアイランド』(講談社ブルーバックス)の中で、100km/Lを目指すべきだと言っている。ちなみに燃費を争うレース「ホンダエコノパワー燃費競技大会」の現在の最高記録は3,014.715km/L。1euで718km と、あくまで机上の計算だが東京から青森近くまで行ける。芭蕉もびっくり。
- 未来は無い:
- 三崎浩士『エコカーは未来を救えるか』(ダイヤモンド社)は、各種新世代自動車の技術的将来性をひとつずつ検証してこれらが決して頼りにならないことを明らかにし、結論としては自動車を減らす社会づくりを提案している。元自動車開発技術者が言うのだから信頼性がある。
- 環境影響:
- なお、加えてクルマの環境影響についてはエネルギーと大気汚染だけでなく、(1)クルマ単体でなく道路整備などに伴う環境破壊と合わせて考える必要があること、(2)まだ乗れるクルマを7年ばかりで廃車にして有害なシュレッダーダストなどの産業廃棄物を大量に排出しつづけることはいずれ許されなくなること、この2点についてもさらに配慮する必要がある。